2017-05-19
リゾメロ
甘える人
見渡す限りに凝固した血液に足をとられた。
それは底なしのように、あがけばあがくほど体を呑み込んでいく沼。
足、膝、腰、胸、首。
最後はとっぷりと、天に向かって伸ばした指の先飲まれてしまった。
気が付くとそこは見慣れた自室で、沈んだはずの身はベッドの上にあった。
少し乱れた呼吸とじわりと額に滲んだ汗が、嫌な夢を見ていたことを思い出させる。
「…………」
妙に広く感じるベッドはリゾット一人分の重さしか沈んでいない。
ずるりとそこから這い出ると慣れた足取りで室外へ出る。
足元が確認出来る程度の明かりが照らす廊下を歩いて階下へ向かう。
リビングの扉を開けると煌々と照らされる室内で男が一人酒を楽しんでいた。
「あ? どうした、リゾット」
「いや……」
リゾットはきょろきょろと変わり映えのない部屋の中に視線を走らせながら、呟くようにそう答えた。
が、ウィスキーグラスを片手に新聞を読んでいたプロシュートは怪訝そうに片眉を持ち上げる。
「なんだァ? 眠れねェならおまえも飲むか?」
カランッとグラス内の氷を揺らして音を立てて見せながらプロシュートが言うと、リゾットの視線がちらりとそちらに向いた。
「……メローネは……」
「あ? メローネ?」
心底不思議そうなプロシュートの声。
「メローネはおまえ……ホルマジオとギアッチョと一緒に任務行ってるだろ。帰りの予定は明日の夜じゃあなかったか?」
彼の言葉にハッとしたようにリゾットの瞳が揺れた。
「そう……か、そうだったな」
「なんだ、夢でも見てたのか?」
ケラケラと笑うプロシュートを見て、ばつが悪そうにリゾットはそそくさとその場を後にしていった。
静かに閉じた扉を見て、プロシュートは大袈裟に肩をすくめる。
「マンマを探してるガキみてェな面しやがって」
言葉の後に大きなため息が続いた。
翌夕方、任務に出ていた三人が戻ってきた。
「オレシャワー一番! もう男臭くてかなわねぇよ!」
「オメーも男だろ!」
玄関に飛び込んでくるや転げるようにシャワールームを目指すメローネの背にホルマジオが声を投げるが、彼はそんなもの全く気にもせず既に服を脱ぎにかかっている。
「テメー! こんなところで脱いでんじゃあねーぞクソが!」
「おーおーうるせーのが帰ってきやがったな」
「あ?」
二階からひょこりと現れた頭が悪態を吐くとギアッチョの顔がぐいんっとそちらに向く。
ひらひらとホルマジオが手を振りながら「おー、帰ったぜ~」とプロシュートに声をかけた。
「お疲れさん。メローネは?」
「シャワー浴びに行ったぜ。長いかもな」
「そうか」
プロシュートはちらりとリゾットの部屋の扉に視線をやったが、そこが開くことはなかった。
「あ~、さっぱりした」
笑顔のメローネはまだ濡れた髪にタオルを当てながら、廊下を一人そんな言葉をこぼしながら歩いていた。
Tシャツにゆるいスウェット姿で上機嫌の彼は鼻歌交じりに階段に足をかけて二階へ向かう。
部屋の扉を開けると、室内が暗いわけではないのだが、なんだかとても空気がよどんでいるような気がした。せっかくの清々しい気分が台無しである。
換気をしてないのか? リゾットの奴め何をさぼっているんだ、なんて思っていたら、ベッドの上に乗っていた巨体がゆるりとした動きで起き上がった。
「メローネ……?」
その声が聞き慣れないものだったので、メローネは驚いて目を丸くする。
そして足早に彼の傍らに向かうと、寝台に腰を下ろした。
「どうしたんだ、リゾット? 具合でも悪いのか?」
少し顔色も悪い気がする。メローネはリゾットの額に手を当ててみるが、どうやら体温は平時と変わらないようだ。
リゾットの指先がメローネの手の甲に触れ、そっと五指で包み込む。
「リゾット?」
そのままメローネの掌を自分の口元まで持ってきたリゾットは目を伏せて何度かキスを贈ってきた。
不思議そうにその光景を見つめながらも、くすぐったさを覚えたメローネは困ったような笑みを浮かべる。
「リゾット」
すうっと赤い瞳がメローネを捉える。
「寂しかった?」
その問いにリゾットは答えなかったが、メローネの体を掻き抱くとそのままベッドに押し倒した。
髪がまだ完全に乾いていないメローネは「シーツが濡れてしまう」ととっさに思ったが、自分の胸元辺りに顔を埋めているリゾットの頭に両腕を回して頬を寄せた。
「ただいま、リゾット」
「……ああ」
ほうっと深い息を吐くリゾット。
どうやら今夜はいい夢が見られそうである。
それは底なしのように、あがけばあがくほど体を呑み込んでいく沼。
足、膝、腰、胸、首。
最後はとっぷりと、天に向かって伸ばした指の先飲まれてしまった。
気が付くとそこは見慣れた自室で、沈んだはずの身はベッドの上にあった。
少し乱れた呼吸とじわりと額に滲んだ汗が、嫌な夢を見ていたことを思い出させる。
「…………」
妙に広く感じるベッドはリゾット一人分の重さしか沈んでいない。
ずるりとそこから這い出ると慣れた足取りで室外へ出る。
足元が確認出来る程度の明かりが照らす廊下を歩いて階下へ向かう。
リビングの扉を開けると煌々と照らされる室内で男が一人酒を楽しんでいた。
「あ? どうした、リゾット」
「いや……」
リゾットはきょろきょろと変わり映えのない部屋の中に視線を走らせながら、呟くようにそう答えた。
が、ウィスキーグラスを片手に新聞を読んでいたプロシュートは怪訝そうに片眉を持ち上げる。
「なんだァ? 眠れねェならおまえも飲むか?」
カランッとグラス内の氷を揺らして音を立てて見せながらプロシュートが言うと、リゾットの視線がちらりとそちらに向いた。
「……メローネは……」
「あ? メローネ?」
心底不思議そうなプロシュートの声。
「メローネはおまえ……ホルマジオとギアッチョと一緒に任務行ってるだろ。帰りの予定は明日の夜じゃあなかったか?」
彼の言葉にハッとしたようにリゾットの瞳が揺れた。
「そう……か、そうだったな」
「なんだ、夢でも見てたのか?」
ケラケラと笑うプロシュートを見て、ばつが悪そうにリゾットはそそくさとその場を後にしていった。
静かに閉じた扉を見て、プロシュートは大袈裟に肩をすくめる。
「マンマを探してるガキみてェな面しやがって」
言葉の後に大きなため息が続いた。
翌夕方、任務に出ていた三人が戻ってきた。
「オレシャワー一番! もう男臭くてかなわねぇよ!」
「オメーも男だろ!」
玄関に飛び込んでくるや転げるようにシャワールームを目指すメローネの背にホルマジオが声を投げるが、彼はそんなもの全く気にもせず既に服を脱ぎにかかっている。
「テメー! こんなところで脱いでんじゃあねーぞクソが!」
「おーおーうるせーのが帰ってきやがったな」
「あ?」
二階からひょこりと現れた頭が悪態を吐くとギアッチョの顔がぐいんっとそちらに向く。
ひらひらとホルマジオが手を振りながら「おー、帰ったぜ~」とプロシュートに声をかけた。
「お疲れさん。メローネは?」
「シャワー浴びに行ったぜ。長いかもな」
「そうか」
プロシュートはちらりとリゾットの部屋の扉に視線をやったが、そこが開くことはなかった。
「あ~、さっぱりした」
笑顔のメローネはまだ濡れた髪にタオルを当てながら、廊下を一人そんな言葉をこぼしながら歩いていた。
Tシャツにゆるいスウェット姿で上機嫌の彼は鼻歌交じりに階段に足をかけて二階へ向かう。
部屋の扉を開けると、室内が暗いわけではないのだが、なんだかとても空気がよどんでいるような気がした。せっかくの清々しい気分が台無しである。
換気をしてないのか? リゾットの奴め何をさぼっているんだ、なんて思っていたら、ベッドの上に乗っていた巨体がゆるりとした動きで起き上がった。
「メローネ……?」
その声が聞き慣れないものだったので、メローネは驚いて目を丸くする。
そして足早に彼の傍らに向かうと、寝台に腰を下ろした。
「どうしたんだ、リゾット? 具合でも悪いのか?」
少し顔色も悪い気がする。メローネはリゾットの額に手を当ててみるが、どうやら体温は平時と変わらないようだ。
リゾットの指先がメローネの手の甲に触れ、そっと五指で包み込む。
「リゾット?」
そのままメローネの掌を自分の口元まで持ってきたリゾットは目を伏せて何度かキスを贈ってきた。
不思議そうにその光景を見つめながらも、くすぐったさを覚えたメローネは困ったような笑みを浮かべる。
「リゾット」
すうっと赤い瞳がメローネを捉える。
「寂しかった?」
その問いにリゾットは答えなかったが、メローネの体を掻き抱くとそのままベッドに押し倒した。
髪がまだ完全に乾いていないメローネは「シーツが濡れてしまう」ととっさに思ったが、自分の胸元辺りに顔を埋めているリゾットの頭に両腕を回して頬を寄せた。
「ただいま、リゾット」
「……ああ」
ほうっと深い息を吐くリゾット。
どうやら今夜はいい夢が見られそうである。